2.目的
冠動脈瘤をともなう川崎病患者のレジストリ研究
3.対象
3.1 選択基準
参加施設において、以下のすべての条件を満たした患者を登録する。
1)2015年以降に発症した川崎病発症例(不全型を含む)で、発症3年以内に診療を開始した例
2015年1月1日~2023年12月31日の発症例(37.5℃以上が初めて出現した日を発症日とする)で、再発例では以前の発症時に冠動脈瘤がない例を含む。
2)30病日以降の心エコーで、冠動脈のいずれかの枝に実測値で内径4.0 mm以上またはZスコアが5.0以上の冠動脈瘤を合併した例。
3.2 除外基準
1)再発例で(内径4.0 mm以上またはZスコア5.0以上の)冠動脈瘤の既往がある例
2)30病日以降の心エコー検査で、冠動脈のいずれの枝の径も実測値で内径4.0 mm未満かつZスコア5.0未満
3)その他、担当医が不適当と判断した症例
4.登録
4.1 施設登録
各施設の研究責任者は、施設名、診療科名、電話番号、FAX番号、住所、責任者氏名、Eメールアドレスをデータセンターに連絡する。データセンターは施設番号を割り付けて連絡する。
4.2 症例登録
研究担当医は、患者選択基準をすべて満たし、除外基準のいずれにも該当しないことを確認し、患者・保護者に同意説明を得た後、30日以内にデータセンターに症例を登録する。各施設の研究責任者は、患者の識別番号と個人情報の連結表を厳重に保管する。本連結表の提出が求められることはない。
4.3 転院(紹介)症例の扱い
他院からの転院症例に関して、研究参加施設外からの転入症例は、発症1年以内に診療を開始した例を対象とする。研究参加施設間での転出入症例は、全て対象とし観察を継続する。
研究期間中に他院に紹介した場合、紹介先の施設に連絡をとり追跡を継続することを推奨する(紹介先の施設も本研究に参加できるように努める)。
5.研究計画
5.1 研究デザイン
多機関共同前向きレジストリ研究
5.2 研究期間
症例登録から10年間を研究期間とする。期間中はなるべく最長でも1年毎に定期的な診察と検査を行い、診療情報をデータセンターに送付する。本研究は、初期計画では5年間の追跡の予定であったが、さらに長期の観察で成果が得られる可能性があり、(6年目からは調査項目を簡略化し)10年目まで延長した。
5.3 研究の変更・中止
計画書の変更が必要になった場合、研究代表者は研究協力者と協議して変更し、倫理委員会の承認を得る。倫理審査委員会により、実施計画などの変更の指示があり受け入れが困難と判断されたとき、あるいは中止の勧告・指示があったときは研究を中止する。
6.調査項目
付録Aに項目の詳細と記載方法を示した。
6.1 登録時調査項目
30~90病日でなるべく30病日に近い時点を調査日とし、以下の項目を症例報告書に記載してデータセンターに送付・登録する。
1)症例番号
2)調査項目 生年月、性別、川崎病の発症年月日、主要症状数、川崎病の罹患回数、心エコー検査所見(付録B参照)、身体計測値、血液検査所見、急性期治療、冠動脈造影所見、急性冠症候群の発症・治療、その他
6.2 追跡時調査項目(1~5年目)
発症日を起点として追跡1年目調査日までの範囲(1年目調査期間)で、以下の項目を症例報告書に記載してデータセンターに送付する。1年目調査日は、1年0日±6か月(発症6か月~1年6か月)で1年0日になるべく近い時点(前後の間隔が同じ場合は後の時点)とする。以後、(N-1)年目調査日~N年目調査日(N年目調査期間)の情報を、同様に症例報告書に記載して送付する。N年目調査日は、N年0日±6か月でN年0日になるべく近い時点(前後の間隔が同じ場合は後の時点)とする(Nは2~5の整数)。この期間に受診がない場合は、発症後N年0日の時点でわかり得る情報を入力する。途中で研究中止となった際は、その時点で得られた範囲で以下の情報を中止理由とともにデータセンターに送付する。転院時は、転院先も参加施設とし追跡の継続ができるように努める。転院先が参加施設でない場合、患者・家族の了解が得られれば、電話、Eメール、手紙などにより、可能な範囲の情報を収集し入力するだけでも差し支えない。
1)症例番号
2)調査項目 通院の有無、川崎病再発の有無、内服薬、心エコー検査所見、身体計測値、冠動脈造影所見、急性冠症候群の発症・治療、その他
6.3 追跡時調査項目(6~10年目)
前項と同様に、(N-1)年目調査日~N年目調査日(N年目調査期間)の情報を、同様に症例報告書に記載して送付する。N年目調査日は、N年0日±6か月でN年0日になるべく近い時点(前後の間隔が同じ場合は後の時点)とする(Nは6~10の整数)。この期間に受診がない場合は、発症後N年0日の時点でわかり得る情報を入力する。
1)症例番号
2)調査項目
通院の有無、内服薬、冠動脈イベント・主要心イベントの有無と時期、その他。フォローが長期になると転院の可能性が高くなることから、患者・家族の了解が得られれば、これらの情報は電話、Eメール、手紙などで収集・入力することでも差し支えない。
7.データセンターでのデータ収集
研究を中止した症例を含め登録されたすべての症例について症例報告書を作成する。データセンターへの送付は、原則としてEDC(REDCapによる電子的データ収集システム)で行う。
8.評価項目
8.1 一次評価項目
冠動脈イベントの発生率
冠動脈イベントは、血栓形成、狭窄、閉塞のいずれかの発生と定義する。川崎病のCAAでは無症状で発生することも少なくないので、急性冠症候群の発症は二次評価項目とした。
8.2 二次評価項目
1)主要心イベントの発生率
主要心イベントは、不安定狭心症、心筋梗塞、心臓関連死のいずれかによる急性冠症候群の発症と定義する。
2)退縮の発生率
3)冠動脈イベント、主要心イベント、退縮の発生と内服薬の関連
9.統計解析
一次評価項目である冠動脈イベント発生率と95%信頼区間を経年的に算出する。日本での先行研究(ZSP2)によれば、発症5年後における冠動脈イベントの発生率は、Zスコア5以上10未満の中等瘤では約5%、10以上(または実測値8mm以上)の巨大瘤では約25%であり、目標症例数が到達できたとすれば、それぞれの95%信頼区間は2~8%、10~40%と予想される。性別・年齢、薬剤の使用状況、CAAの径・形状・部位等の冠動脈イベント発生率に影響すると考えられる要因を用いてサブグループ解析、多変量解析を行う。 二次評価項目である主要心イベントと退縮の発生率についても同様に解析する。抗血小板薬やワルファリン等の薬剤の使用状況について、研究期間中の開始、継続、中止および各々の理由を集計し使用実態を記述する。背景因子を調整した上で、服薬群と非服薬群を比較する。
10.研究期間と目標症例数
10.1 登録期間・研究実施予定期間
症例登録期間:2017年9月1日~2024年12月31日(施設登録は2017年5月31日開始)
観察期間:2017年9月1日~2034年12月31日
最低10年間は経過観察する。登録・観察期間終了後もさらに研究体制が継続できれば、より長期に追跡することも検討する。
10.2 目標症例数
日本での川崎病の新規患者が年間約15,000人とすると、対象となるCAAの発生率は全国調査から0.7%と見積もられ、このうち約1/4~1/3をカバーするとして、年間約25~30例、5~8年間で約200例(このうちZスコアによる巨大瘤が約30例)と予想される。
11.倫理的事項
11.1 遵守する倫理的原則
本研究のすべての関係者は「ヘルシンキ宣言」(2013年)および「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」(令和3年3月23日 制定,令和4年3月10日 一部改正、厚生労働省・文部科学省)を遵守して実施する。また,個人情報等の取扱いに関しては、個人情報保護法(令和4年4月1日施行)および関連条例等に規定される規律を遵守する。
11.2 倫理委員会による試験実施の審査・承認
多機関共同研究として,原則として研究代表施設(東京都立小児総合医療センター)の倫理委員会で一括審査を行う(H28b-60)が、各施設の倫理委員会において個別に審査を受けることを可能である。いずれの場合も、審査の上で各施設の長の承認を得なければならない。研究期間を通じ、審査対象となる文書が変更・改訂された場合(軽微な変更・改訂は除く)には、再度審議し承認を受けた上で本研究を行う。
11.3 患者・保護者に対する説明と同意取得
インフォームド・コンセントは、説明文書を用いて口頭または文書(各施設の方針に委ねる)による同意を得て(付録C参照)、診療録に記録する。患者にも口頭で説明し(必要あればアセント文書も参考に)、年齢に応じた理解を得るように努める。なお、研究計画変更に伴う再同意は、原則として必要としない。
11.4 個人情報保護
本研究では、患者の氏名・カルテ番号・住所などの個人情報は扱わない。登録患者の同定や照会は症例番号を用いて行われる(仮名加工)。連結表は各施設の責任者が厳重に管理し、代表施設に提出を求められることはない。
11.5 利益と不利益
研究対象者に対する直接的な利益や不利益はない。ただし、レジストリ体制により、確実な追跡ができることは、対象者の診療上有益と考えられる。12.研究結果の管理と利用
12.1 データ管理と記録の保存
研究責任者は,得られたデータを研究実施に関わる重要文書(実施計画書,倫理委員会承認書等)とともに、本研究終了後5年または最後の報告・公開後3年のいずれか遅い方まで保管する。その後、すべての電子媒体は削除し、紙書類は裁断処理を行い破棄する。
12.2 研究成果の利用
得られたデータは本研究の目的以外に使用しない。研究代表者と研究分担者間で協議し承認が得られれば、研究者間でデータを共有し情報を公表することができる。主要な結果に関する論文の筆頭著者は、研究代表者、研究分担者あるいは事務局とする。共著者は、研究代表者、研究分担者、生物統計家、事務局のほか、症例登録数に応じた貢献度により研究協力者から選出する。データの二次利用による副次的解析は、研究代表者と研究分担者の承認が得られれば、研究協力者(参加施設からのデータ提供者)でも行うことができる。その解析結果の公開に際しても、研究代表者と研究分担者の承認を得る必要がある。
12.3 臨床研究の登録
大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)「臨床試験登録システム」に登録した(UMIN 000024768)。
12.4 研究資金
東京都立病院臨床研究費、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業「川崎病に伴う冠動脈後遺症の成人期の予後と移行医療の実態に関する研究」(20ek0109467h0001)の研究費を利用している。なお、本研究は、日本川崎病学会および日本小児循環器学会の承認を得て行っている。
12.5 利益相反
本研究の計画・実施・発表に関して、学会が定める利益相反(COI)はない。